4.磁束のピン止めと臨界電流
しかし,第2種超伝導体にも欠点があります.先ほどもお話ししましたとおり,
第2種超伝導体のワイヤーをぐるぐるに巻いたコイルに
電流を流して磁場を発生させるのですが,磁場中で電流を流すとローレンツ力という力が働きます.
この場合は,上の図のように磁束に力が働くので,磁束は力の方向に運動を始めます.
磁束が運動をすると,電圧(誘導起電力)が発生します.電流を流して
電圧が発生するということは電気抵抗があるということになってしまいますね!それでは,
超伝導体を使う意味が無くなってしまいます.
でも,何とか磁束が運動を始めるのを押さえてしまえば大丈夫です.それを
磁束のピン止めといいます.磁束は正常状態の部分に居ようとする性質があるので,
結晶中に欠陥などの正常状態の部分を作ってやれば磁束をピン止めさせることが
できます.でも,電流に比例して
ローレンツ力は大きくなるので,電流を増やしていくと,あるところでピン止めする力が限界に達して,
磁束が動き出してしまい,電気抵抗が発生します.その電流の大きさを臨界電流といい,
超伝導材料の特性を表す重要な量となっています.この臨界電流が大きいほど,たくさんの電流を
流せるので,強力な超伝導電磁石を作ることができます.
5.フィッシング効果
次に,この磁束ピン止め現象を表すおもしろい実験をお見せしましょう.
それはフィッシング効果 (浮遊効果(Levitation) とも言う)です.
要するに超伝導体を魚を釣るように釣り上げることができると言うわけです.
下の図に示すように,まず,強力磁石を超伝導体に近づけた状態で,超伝導体を液体窒素(-196 ℃)
に浸けて冷やし,超伝導の状態にします.(下左図)充分冷えた状態で磁石を持ち上げると,超伝導体が釣り上げられます.(下右図)これは,磁束ピン止めの効果によって,超伝導体にピン止めされた磁束が超伝導体から抜け出ることができないために,磁束によって超伝導体が釣り上げられることによるものです.この現象を記録したビデオ(mpeg, 300k)がヒューストン大学の超伝導研究所にあります.(←これは残念ながらもうないみたいです)
6.磁束ピン止めの研究
高温超伝導体は臨界温度(転移温度)が液体窒素(-196 ℃)よりも高いために,高価で
資源としても限りのある液体ヘリウム(- 269 ℃)を使わなくても,安価で原料が無尽蔵に
ある(窒素は空気中にたくさんある)液体窒素を使って,超伝導を作ることができると
いうことで,応用の面からも大きな期待を集めています.しかし,この材料を実際使う際
には,磁束のピン止め力が大きくなければ,強磁場を発生することは難しくなります.
我々の研究室では,高温超伝導体での磁束の磁束のピン止めの機構を調べるために,
超音波を使って磁束を振動させるという方法を用いて研究を行っています.
⇨ 詳しく知りたい方は研究紹介をご覧ください.
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Copyright (C) 1996 Y. Horie, Kagoshima University