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超伝導のはなし(高校,一般向け)

超伝導のエネルギー応用と磁束ピン止め


高校生や一般の方向けに,超伝導のピン止め現象についてやさしく解説したつもりです.
目次
  1. 超伝導とは
  2. エネルギー技術への応用
  3. 2種類の超伝導体
  4. 磁束のピン止めと臨界電流
  5. フィッシング効果
  6. 磁束ピン止めの研究

1.超伝導とは

  『超伝導』というのは一言で言うと,ある温度以下で電気抵抗がゼロになる現象の ことです.この温度のことを超伝導転移温度(あるいは臨界温度)といいます. また,超伝導体が磁力線を通さない,「マイスナー効果」といわれるものも生じます. これは,電気抵抗がゼロである超伝導の性質と密接な関連のある現象で,以上の2つが 超伝導のもっとも大きな特徴です.しかし,これらの現象は,転移温度以下でなければ現れません. 数年前に発見された高温超伝導体では,転移温度はもっとも高いものでも約-150℃です.

  超伝導現象は1911 年にオランダの物理学者カマリン・オンネス によって,水銀(転移温度=約-270℃)で発見されました. この現象がどうして起こるのかは,長い間未解決の問題でしたが, 1957 年,バーディーン・クーパー・シュリーファーの3人の物理学者によって理論的に説明 されました.この理論を3人の頭文字を取ってBCS理論といいます.3人は, この理論でノーベル賞を取りましたが,バーディンは半導体でも2つ目のノーベル賞を取って います.彼は物理学科ではなく電子工学科の出身だったこともつけ加えておきましょう. しかし,この理論は解決するのに45年もかかっただけあって,非常に難しいので, それについて説明するのはやめて,ここでは,超伝導を用いた応用の話をしましょう.  

2.エネルギー技術への応用

 ふだん私たちは電化製品を使うときには必ず電気コードをコンセントにつなぎます. (電池をつなぐときは別ですが)でも,電気コードには必ず電気抵抗があって,そこに 電流を流すためには,つねに電気抵抗に打ち勝つようなパワーを加えてやらなければ なりません.そして,そのパワーの一部は電気抵抗のために熱エネルギーとして外部に 放出されます.こたつなどの電化製品を使うと電気コードが熱くなるのはそのためです. ですから,発電所で作り出された電力の一部は電化製品にたどり着くまでに,途中の導 線で「浪費」されているのです.

 ところが送電線に電気抵抗がゼロの超伝導体を使うと,途中でのエネルギーの損失 がないため,エネルギーの節約ができます.また,一度流した電流は,いつまでたっても 小さくならないので,電力を蓄えておくことができます.地下に超伝導線を埋めて, 電力を貯蔵しようとする計画もあります.

 導線をぐるぐる巻いてコイルにし,電流を流すと磁場が発生します.この導線を 超伝導体で作ると,エネルギーの消費がないので,少ない電力で強力な磁場を 作ることができます.すなわち,小さな装置で強力な磁場を発生することができるのです. この強力磁場を利用したのが,磁気浮上列車(リニアモーターカー)超伝導推進船です.また,核融合炉加速器用の電磁石など 研究用のほか,NMR診断などの医療用にも幅広く使われています.

⇨ 磁気浮上列車の開発に関する詳しい説明が鉄道総合技術研究所にあります.(写真は(財)鉄道総合技術研究所,技術情報センターのご厚意によるものです)

  下の写真はアメリカのオークリッジ国立研究所 (The Oak Ridge National Laboratory)で作られた高温超伝導体のワイヤーとそれを巻いて作ったコイルです.同じ位の大きさの磁場を普通の導線を巻いたコイルに電流を流して発生させようとすると,電流を流したことによって発生した熱を冷却するのに,大量の冷却水が必要になると同時に,コイル全体の重量も重くなるので,とても列車に乗せて浮かせるわけにはいきません.


⇧超伝導ワイヤ (superconducting wire)
⇦超伝導コイル(superconducting coils)

(Special thanks to the Oak Ridge National Laboratory for the permission to use photos.)

3.2種類の超伝導体

  さきほど,超伝導体は磁場を通さないマイスナー効果を示すといいましたが,実は正確には 超伝導体には磁場を通すものと通さないものの2種類があります.それぞれを第1種, 第2種超伝導体といいます.図に示したように,第2種超伝導体の中には,磁束 (磁力線の束)が三角格子状に入っています.(磁束格子という) そして,磁束が入っている部分は超伝導でない状態(正常状態;すなわち電気抵抗のある状態) となっています.

  第1種,第2種のいずれの場合も超伝導の領域がつながっているので,電気抵抗はゼロです. ただ違うのは,第1種のほうは磁場を強くしていくと,あるところで突然全体が正常状態 (電気抵抗のある状態)になるのに対し, 第2種の方は先に正常状態を作っていくので,磁場を強くしていっても正常状態の体積が増えるだけで, 電気抵抗ゼロの状態が続くというわけです.ですから,できるだけ大きな磁場を,エネルギーの損失なしに 発生させたければ,第2種の超伝導体を使う方が有利だということがわかるでしょう.

4.磁束のピン止めと臨界電流

  しかし,第2種超伝導体にも欠点があります.先ほどもお話ししましたとおり, 第2種超伝導体のワイヤーをぐるぐるに巻いたコイルに 電流を流して磁場を発生させるのですが,磁場中で電流を流すとローレンツ力という力が働きます. この場合は,上の図のように磁束に力が働くので,磁束は力の方向に運動を始めます. 磁束が運動をすると,電圧(誘導起電力)が発生します.電流を流して 電圧が発生するということは電気抵抗があるということになってしまいますね!それでは, 超伝導体を使う意味が無くなってしまいます.

  でも,何とか磁束が運動を始めるのを押さえてしまえば大丈夫です.それを 磁束のピン止めといいます.磁束は正常状態の部分に居ようとする性質があるので, 結晶中に欠陥などの正常状態の部分を作ってやれば磁束をピン止めさせることが できます.でも,電流に比例して ローレンツ力は大きくなるので,電流を増やしていくと,あるところでピン止めする力が限界に達して, 磁束が動き出してしまい,電気抵抗が発生します.その電流の大きさを臨界電流といい, 超伝導材料の特性を表す重要な量となっています.この臨界電流が大きいほど,たくさんの電流を 流せるので,強力な超伝導電磁石を作ることができます.

5.フィッシング効果

  次に,この磁束ピン止め現象を表すおもしろい実験をお見せしましょう. それはフィッシング効果 (浮遊効果(Levitation) とも言う)です. 要するに超伝導体を魚を釣るように釣り上げることができると言うわけです. 下の図に示すように,まず,強力磁石を超伝導体に近づけた状態で,超伝導体を液体窒素(-196 ℃) に浸けて冷やし,超伝導の状態にします.(下左図)充分冷えた状態で磁石を持ち上げると,超伝導体が釣り上げられます.(下右図)これは,磁束ピン止めの効果によって,超伝導体にピン止めされた磁束が超伝導体から抜け出ることができないために,磁束によって超伝導体が釣り上げられることによるものです.この現象を記録したビデオ(mpeg, 300k)がヒューストン大学の超伝導研究所にあります.(←これは残念ながらもうないみたいです)

6.磁束ピン止めの研究

  高温超伝導体は臨界温度(転移温度)が液体窒素(-196 ℃)よりも高いために,高価で 資源としても限りのある液体ヘリウム(- 269 ℃)を使わなくても,安価で原料が無尽蔵に ある(窒素は空気中にたくさんある)液体窒素を使って,超伝導を作ることができると いうことで,応用の面からも大きな期待を集めています.しかし,この材料を実際使う際 には,磁束のピン止め力が大きくなければ,強磁場を発生することは難しくなります. 我々の研究室では,高温超伝導体での磁束の磁束のピン止めの機構を調べるために, 超音波を使って磁束を振動させるという方法を用いて研究を行っています.
⇨ 詳しく知りたい方は
研究紹介をご覧ください.


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