超音波測定には,上記のように (A)磁束格子の固さを直接測定することができること
のほかに,(B)結晶全体で平均化された情報を得るので,結晶粒界などの弱結合の影響を受けにく
い (C)音波の周波数,振幅を変化させることで,磁束のピン止めポテンシャルの詳細を調べること
ができる等の特長がある.
実際に,Bi2Sr2Ca2Cu3Oy (臨界温度 Tc 〜110 K) と Bi2Sr2CaCu2Oy (Tc 〜 80 K) に
ついて,磁場 H の方向と縦波音波の伝搬方向 k (c 軸に平行)を平行と垂直にした場合の,音速の
磁場変化の温度依存性を測定した結果を図 2. に示す[1].低温側では磁場の印加により音速が増
加し,磁束のピン止めによる効果があることを示している.しかし,Tc より数十度も低い温度
で温度上昇とともに音速が減少し,磁束がピン止めからはずれることを示している.しかも,磁
場方向に対する異方性が大きいことが分かる.我々は,このようなピン止めの異方性を "intrinsic
pinning model" で説明することを試みた[2].
- 図2. 音速の磁場変化の温度依存性
-
Bi 系超伝導体では,臨界温度(80〜110 K)より数十度も低い温度で,温度上昇とともに
音速が減少し,磁束がピン止めからはずれることが分かる.
[将来の展望]
以上のように,超音波によって磁束のピン止め状態を調べることができるが,まだ,そ
の威力を十分発揮しているとは言い難い.特に酸化物超伝導体の場合は大きな単結晶が得にくい
ため,異方的性質を平均化してしまう上に,広い周波数領域での測定が困難である.最近,単結
晶薄膜を用いた測定法が開発されたので[3],この方法を用いてより詳細な知見が得られるものと
期待される.
[引用・参考文献]
[1]Horie,Y.,Hamamoto,T.,Youssef, A., Ichikawa, F.,Miyazaki,T.,Fukami,T.and
Aomine, T.: Physica B, Vol.194-196, 1994, pp.1581.
[2] Horie,Y.,Miyazaki,T.,Fukami,T. and Youssef,A.: Physica C, Vol.176,
Nos.4-6,1991,pp.521.
[3] Horie,Y., Youssef,A., Oku, T., Maneki, J., Tsutsui, Y., Miyazaki, T., Ichikawa,
F., Fukami,T. and Aomine, T.: Jpn. J. Appl. Phys., Vol.33, Nos.11A,1994, pp.L1511.