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超伝導混合状態の超音波による観測

Ultrasonic Study of Superconducting Mixed State


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[研究の背景]
 第2種超伝導体中に量子化された磁束が侵入している状態(混合状態)に電流を流すと, ローレンツ力によって磁束線が動かされ,電圧(電気抵抗)が発生する.しかし,試料中に不純物 や結晶欠陥など(ピン止め中心という)があると,これらによって磁束線が "ピン止め" され,電 圧の発生を抑えることができる.

 しかし,高温超伝導体では臨界温度が高いことと引替えに,熱励起が磁束のピン止めに与え る影響が大きい.特に Bi 系超伝導体においては,臨界温度より数十度下でも磁場中で抵抗が現 れる.このことは,応用面で非常に深刻な問題である.従って,この物質における磁束のピン止 め特性を詳細に調べることにより,どのようなものが磁束のピン止め中心として有効かを知るこ とができれば,高温・高磁場中での利用に関して有用な知見が得られる.

 現在のところ,輸送電流,磁化測定等によって磁束ピン止め特性の測定が試みられているが, 我々は次節で述べるような超音波の特質を生かした測定を行っている.

図1. 超音波と磁束格子との相互作用
 磁束がピン止めされている状態では,超伝導体中を伝搬する超音波は,ピン止め中心を 介して磁束格子を振動させる.(図は横波音波の場合を示す)

[研究の特長]
 図 1. に横波超音波と磁束格子との相互作用の様子を模式的に示した.結晶中に超音波 を伝搬させると,結晶格子上のピン止め中心を振動させる.磁束がピン止めされている場合には, ピン止めされている磁束も同時に振動させることになるが,隣同士の磁束線の間には斥力が働き, 磁束は三角格子を形成しているため,結果として磁束格子全体を振動させることになる.従って, 超伝導体中を伝搬する超音波は,磁束格子の"固さ"を感じる.

 超音波測定には,上記のように (A)磁束格子の固さを直接測定することができること のほかに,(B)結晶全体で平均化された情報を得るので,結晶粒界などの弱結合の影響を受けにく い (C)音波の周波数,振幅を変化させることで,磁束のピン止めポテンシャルの詳細を調べること ができる等の特長がある.

 実際に,Bi2Sr2Ca2Cu3Oy (臨界温度 Tc 〜110 K) と Bi2Sr2CaCu2Oy (Tc 〜 80 K) に ついて,磁場 H の方向と縦波音波の伝搬方向 k (c 軸に平行)を平行と垂直にした場合の,音速の 磁場変化の温度依存性を測定した結果を図 2. に示す[1].低温側では磁場の印加により音速が増 加し,磁束のピン止めによる効果があることを示している.しかし,Tc より数十度も低い温度 で温度上昇とともに音速が減少し,磁束がピン止めからはずれることを示している.しかも,磁 場方向に対する異方性が大きいことが分かる.我々は,このようなピン止めの異方性を "intrinsic pinning model" で説明することを試みた[2].

図2. 音速の磁場変化の温度依存性
 Bi 系超伝導体では,臨界温度(80〜110 K)より数十度も低い温度で,温度上昇とともに 音速が減少し,磁束がピン止めからはずれることが分かる.

[将来の展望]
 以上のように,超音波によって磁束のピン止め状態を調べることができるが,まだ,そ の威力を十分発揮しているとは言い難い.特に酸化物超伝導体の場合は大きな単結晶が得にくい ため,異方的性質を平均化してしまう上に,広い周波数領域での測定が困難である.最近,単結 晶薄膜を用いた測定法が開発されたので[3],この方法を用いてより詳細な知見が得られるものと 期待される.

[引用・参考文献]
[1]Horie,Y.,Hamamoto,T.,Youssef, A., Ichikawa, F.,Miyazaki,T.,Fukami,T.and Aomine, T.: Physica B, Vol.194-196, 1994, pp.1581.
[2] Horie,Y.,Miyazaki,T.,Fukami,T. and Youssef,A.: Physica C, Vol.176, Nos.4-6,1991,pp.521.
[3] Horie,Y., Youssef,A., Oku, T., Maneki, J., Tsutsui, Y., Miyazaki, T., Ichikawa, F., Fukami,T. and Aomine, T.: Jpn. J. Appl. Phys., Vol.33, Nos.11A,1994, pp.L1511.


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by Y. Horie